真白の瞳が彷徨う。
全てに視線は合わない。
何もかも映している様で・・・
一切映し出す事はない。
「"死魄(シハク)"」
無表情の呼び掛け。
大地の色彩の髪を持つ少年が覗き込む。
その表情すら映し出す事はない。
眼前にあるのにも関わらず・・・
「ヒナタ・・・」
静かにその名を呼ぶのは蜂蜜色の髪の少女。
押し殺された感情の声音。
その声音に・・・静かに・・・ゆっくりと顔を上げた。
「・・・何?」
何もない問い。
ただ、小首を傾げて問うのだ。
何もない。
不敵な微笑も、全てを知った様な瞳も。
クスクスとした笑いさえも・・・
全てがないのだ。
そんな彼女は知らない。
「ヒナタ 寝なさいよ 今日は・・・」
「そうだよ 今日はもう何もないから」
促す様に、蜂蜜色の髪の少女が立たせ・・・
大地の色の髪の少年がその背を押す。
導く様に彼女の部屋の前に連れて行く。
その間、成すがままなのが・・・
在り得ない事なのだ。
部屋の前に行っても・・・
全てを蜂蜜色の髪の少女が行なう。
扉を開けてベットまで導いて・・・
「「オヤスミナサイ」」
揃って二人が扉を閉める。
その様子さえも・・・
虚ろな真白の瞳が静かに映した。
+++ 貴方の隣には +++
序章 隠遁 月明かり
月明かりがゆっくりと差し込む。
冷涼な気配を連れて・・・
その凍てつく光は静かに室内を灯す。
光に誘われる様に・・・
ゆっくりとベットから抜け出る。
漆黒の髪が月明かりで艶やかに光り・・・
真白の瞳に灯るのは冷涼なる輝き。
「・・・細い月・・・」
ゆっくりと真白の瞳が映し込む。
凍てつく細い月を・・・
「"魄"さんが付けてくれた名前・・・」
『"旱神(カンシン)"とは・・・ また・・・ ナルト 良いのじゃな?』
飄々と笑うのは火影。
その瞳の奥は穏やかな光が灯っている。
火影の様子に・・・
『ああ ワリーかよ』
『悪くねーよな? クックック 小狐ちゃ『"魃(バツ)"ッッッッッッッッ!!』
腹を抱えて笑う"魃"に、カッと蒼の瞳を見開き飛びかかる。
戯れ合い、その言葉が適切だろう。
笑い続ける"魃"に・・・
飛びかかり、禁術を放つ。
意図も容易く流されるのだが・・・
繰り返し・・・続けるのだ。
その爆音の中で・・・
笑うのは火影。
小首を傾げるのは・・・
結界を維持し続ける"魄(ハク)"の隣で佇む少女。
『どうしたんですか?』
クィクィと引かれる衣。
小さく笑みを浮かべて"魄"が見下ろす。
『何で 同じ字も入ってない・・・よ?』
『同じ字はですね "魃"は水気を払いのける鬼神の意です
その関連によってひでりを起こす神が"旱神" ま、二人が乾いている証拠ですね』
ポンポンッと腰丈の辺にある漆黒の頭を撫でる。
『"魄" 乾いてるのはお前もだろー?』
『乾いてね〜よッッッ!!!』
ケラケラと笑いながら"魃"と取りあえず否定に走る"旱神"。
"旱神"が肩に乗って首を上下に揺らしているのだが・・・
"魃"にとって何でもない事らしい。
変わらない笑いが響く。
『乾き?』
『欠けてるでしょ? 水が 何かが欠けていてそれだけの存在でしょう・・・か』
欠けた存在。
唯一の構成分子。
陽に近い名でありながら、存在するのは陽とは最も遠い場所。
『アタシ・・・にも・・・ちょうだい? "魄"の字を入れて』
アカデミーの入学と同時に認められた暗部入り。
それも・・・
"伍班"への入隊。
火影から名を貰う事も出来るのだが・・・
欲するのは目の前のヒトの一欠片。
『そうですね・・・」
顎に指を宛て、ゆっくりと真白と黒曜石の一対の瞳を瞬かせる。
静寂・・・
それが"魄"を包み込む。
響くのは・・・
爆発音と絶叫、何故か火影の笑い声。
一瞬だけ気がその方に取られ少女の眉間に青筋が浮かぶのだが・・・
『"死魄(シハク)" 細い月を意味します 満月では瞳の色彩に近いので・・・』
『"死魄"?』
凍てつく輝きを宿す月。
真ん丸の・・・
真白の冷涼なる輝き。
『どうですか?』
『うん アタシは"死魄"』
冷涼なる月の輝きがゆっくりと部屋を満たす。
開け放たれた窓から・・・
夜の凍てつく風がゆっくりと侵入する。
「・・・"魄"・・・」
ゆっくりと膝を抱える。
小さく身を縮めながら・・・
膝の間に顔を乗せて仰ぎ見た。
細い月・・・
まるで呼び掛ける様に。
『アンタの所為よ!! あのヒトが死んだのはっっっっ!!』
パンッと小気味良い音と同時にザッと砂が擦れる音。
息を荒立てた女と冷ややかな視線を送る男達。
そんな大人達の足下に幼女が倒れている。
真っ赤に腫れた頬。
衣は砂で汚れ、ゆっくりと口元から伝うのは紅い雫。
真白の瞳に一杯の透明な雫を溜めて・・・
幼女は俯く。
"何故侵入者如きに捕まるのだ それでも我が子か?"
"この子に・・・継ぐ事など出来ましょうか?"
親達がそれぞれ口にする言葉。
"ヒアシよ 次を望まんか?"
"そうじゃぞ 何もその子だけではあるまい?"
長老達の言葉。
理解していないと・・・思っているのだろうか?
『本家では落ちこぼれなんだろ? 次の子をと』
『だろ こんな程度じゃあな』
『全く ヒアシ殿は何を考えておられるのだろうな』
笑う。
踞っている幼女を見下げて、嗤うのだ。
でも・・・それは・・・真実・・・
嗤いを否定せずに、幼女は静かに真白の瞳から雫を零す。
全てを諦めた様に。
去年・・・
木の葉の祭事と同じにあった日向宗家嫡子の三つの祝い。
対として生を受けた日向の当主から・・・
片割れとを分ける古き血筋。
分つ位置が再び起こす・・・同じ血の・・・争い・・・
嗤う大人は分家、踞る幼女は宗家。
街の裏角。
分家の者達は何かと宗家からの雑務を負わされる。
それは・・・子守りであったり・・・
この所為だろう。
幼女と接点が持てたのは、宗家でも見放されつつある幼女は・・・
贄として差し出されているのだ。
大人達の争いの・・・
『こんな子に何で合わせないとならないのよッッッ!!』
ヒステリックに叫ぶ女を、諌めるのは一人の男。
もう一人は・・・
ゆっくりと幼女に歩み寄る。
ワタシは・・・また・・・何かしたのだろうか・・・
目の前に迫る嗤う顔。
もう・・・どうでもいいかな・・・
ザッと男は屈み込み品定めをする様に幼女を見る。
顎に手を添え、下卑た笑いを浮かべながら・・・
『な〜 この血って他里に売れるんだよな?』
『オイオイ バレたら事だぞ? 末端の日向でも』
嗤う男が更に一人の男を見上げる。
言葉を振られた男は、ため息混じりで答えるが・・・
『アラ? バレなければいいのよ? 私なら・・・ 出来るわよ』
楽しそうな声音を手を合わせながら女が言い出す。
ゆっくりと・・・
諌める男を振り払い、幼女に歩み寄りスッと視線を合わせる様に座り込む。
ニッコリと笑うと真白の瞳が細められる。
『私はヒザシの妻でしたから・・・』
ビクッと幼女が肩を震わせる。
それを楽しそうに嗤う女。
同様に嗤う男一人。
ため息混じりで呆れる男、だが決して否定を再び口にはしなかった。
もう一人も苦笑いを浮かべるだけ。
ゆっくりと伸びる手・・・
小さく身を固める幼女。
『楽しそうですね 知られる前に全てを消し去って"草隠れ"へと身を隠しますか?』
クスクスと響く笑い。
ただ・・・
大人達とは一切違う響き。
透明。
心地よい冷たさを孕む音色に・・・
一斉に大人達が見上げた。
男達は一気に殺気を増す、女だけは怯えた様に震えだした。
漆黒の面を左側にかけ、黒曜石の片眼を細める。
笑う口元は微かに弧を描き・・・
漆黒の髪は襟元で深い藍色の結び紐で結われていた。
細い少年の面影を残す青年が腰掛けているのだ。
彼等の真上、幼女を見下ろす様に・・・
『・・・その成りで暗部かよ・・・』
『へー でも、知ってるだな オレ等が繋がっている事を』
殺気立つ三人の男達。
一人は憎々しげに言い放つ。
ニヤニヤと笑いながら言う。
『・・・ヤメ・・・『見つかったのでは・・・仕方がないか』
女が震える声音で否定を紡ぐが・・・
最後の男が言い切った瞬間だろう。
殺気が破裂する。
『仕方がない それは・・・私の言葉です こんな所で仕方がないですね』
紡がれた言葉は冷涼なる音色。
同時に結界が構成された。
男達も女も知らない。
その結界が彼等自身の術を跳ね返す。
『・・・あ・・・』
小さく幼女が呟いた。
『何も言い返さないのですか? もう、諦めているのですか?』
スッと漆黒の面の者が降り立つ。
まるで・・・
その背後で燃え立つ漆黒の焔を隠す様に。
結界は影の属性となり、返した術以上の効力を織り成す。
『・・・』
スッと手が差し伸べられる。
幼女の頬をに微かに触れるか触れないかの位置で・・・
差し伸べられた指先から淡い光。
"掌仙術"が発動印すらなく紡ぎ出された。
『何もせずに諦めるのですか? 足掻く事さえもせずに?』
何もせずに・・・?
父の教えで・・・でも、答えられなかった
日向の為に・・・でも、何にもならなかった
ワタシは・・・何を・・・諦めているの・・・
『足掻く方法を・・・教えてくれますか?』
差し出された手に・・・
自らの手を重ねたのは自分の意思
真っ直ぐに向けられた真白の瞳を・・・
静かに黒曜石の瞳が見据える。
『いいですよ? 勿論、教えします』
「教えてよ・・・ 今・・・どこにいるの?」
漆黒の闇、黒曜石の様な輝きはない。
微かに灯る真白の月の光は問いに答える事はないのだ。
「教えて・・・よ・・・ "魄"」
呟きは闇に溶け込む。
闇は答えを紡ぎ出す事はなかった。
「本当にいいの? "魃"と"魄"を消して」
手際良く目の前の艶やかな髪を纏める。
口元に加えたピンで固定し、朱の紐を器用に結わえ・・・
真っ直ぐな髪はその全てに従う。
背を流れていた大半の髪は既に結い上げられていた。
「下地は出来ましたし面子も鍛え終わりました 問題はないでしょう」
フッと閉じていた瞳を上げる。
気持ち良さそうに細めながら・・・
それでも紡ぐ言葉は一切感情を入れてはいない。
「そうなんだけど・・・ね・・・ 心配だわ あの子が ハイ 完成」
最後の紐を綺麗に結い上げる。
紐で固定した事で数本のピンを抜いて・・・
ポンッと肩に手を置いた。
「ありがとうございます あの子?」
「そっ 日向の子よ 貴方に希望を持ってたでしょう? 鹿白 女の子にならない?」
ところどころに折り混ざる会話は・・・
"伍班"の事だったり、現在の着替えの話だろう。
ヨシノがテキパキと出すのは何故か女物の着物。
苦笑いを浮かべながら鹿白が首を振る。
「残念ね〜 いいの? 日向の子は」
「いいも何も? 今さらでしょうね コレにします」
スッと深い藍色の衣を引き出す。
その瞬間にヨシノは笑みを深め・・・
嬉々として着付けを始めるのだ。
今さら・・・
偽りの仮面で・・・接触している事に嫌悪を覚えた・・・
これが感情・・・
蒼鹿も・・・感じてる・・・のでしょうか・・・
思考の淵から戻って来た時・・・
嬉々としたヨシノによって全てが終わっていた。
シカクと蒼鹿が戻って来るまでの・・・
久しぶりの団欒までの僅かな間。
細い月が照らし出す。
静かな真白の光が・・・
ゆっくりと闇を照らし、冷涼な空気を包む。
その元で・・・
それぞれの想いが交わる事なく紡がれる。
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☆言い訳☆
ヒナ出会い編?
鹿白は希望です!!
憧れが・・・発展?!
するのか・・・しないのか・・・(アホ)
ナルとは・・・違いますかね・・・
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