「嘘だって言ってるだろ!! だって!! "魃(バツ)"が死ぬなんて!!」


怒声が響き渡る。
室内は愚か、結界を揺らす程の怒声。
洩れるチャクラは呼応する様に・・・
朱を帯び始める。


「"旱神(カンシン)"!!」

切羽詰まった叫びが響く。
それは一人の黒髪の少年から。
頬には独特の印、その足下には控える様に一頭の犬が座る。
ただ・・・
その犬の瞳は何処か野性味をひた隠ししているのだ。


「ナルト・・・ 落ち着け・・・」


冷静な声音を掛けるのは瞳を隠す少年。
淡々とした声音に含まれる色彩は戸惑い。
ただ、隠されている所為だろう・・・
声音だけは冷静に響く。


目の前で叫ぶのは・・・
何よりも冷静で、師匠とする"魃"と"魄"と共にあった存在。
いつも不敵で・・・
崩れる事を知らない者だった。
その生きた路がそうさせているとも理解しているのだが・・・


これ程までに感情を表すなど・・・




「キバ・・・ シノ・・・ ワリーけど・・・一人にさせてくれ・・・」



やっと絞り出す。
フッと怒気が霧散し・・・
蒼の瞳が歪められる。


無造作に・・・金色(こんじき)の髪をかきあげて・・・


笑う。

泣き、笑い・・・


全てを隠した笑みに、キバとシノが息を飲んだ。




「明日には・・・戻る・・・」




たった一つの言葉を残して・・・
金色(こんじき)の色彩は霧散した。















+++ 貴方の隣には +++

序章 隠遁 夜明け


















ゆっくりと空の色彩が変わる。
漆黒から藍色へ、藍色から朱へと。
だんだんと陽が昇るのだ。


玉座の交代。



凍てつく冷涼な光を宿した三日月が・・・
その光を失い、その座さえも失う。



だが、その光は柔らかで今だ凶器な程の光はない。



全ての色彩の変換を蒼の瞳が映した。
ただ虚ろに・・・








『小狐ちゃん 何やってるんだー?』


ニッと笑みを零して・・・
その者はザッと金色(こんじき)の幼子を抱き上げる。
ビクッと幼子が全身を震わせるのだが・・・
一切構わずその者っは突き進む。


『痛そうだなー 全く 偉いぞ? 泣かないでー』


ケラケラと笑いながら"掌仙術"を施す。
ゆっくりと癒え始めていた傷をサッと消し去る。
その全てをポケッと金色(こんじき)の幼子は見やった。
まるで・・・
この世の事とは思えない程の表情で。
その様子を座り込み視線を同じ高さにした漆黒の者が笑う。


漆黒・・・
闇の衣、漆黒の髪。
そして・・・黒曜石の様な瞳。
ただ・・・右眼のみが純白の真白の彩り。


『だ『あー 一歩進むと穴に落ちるぜ?』

ポンポンと置かれる手が・・・
余りにも暖かい事に、やっと思い出したかの様に問う瞬間だろう。
苦笑いを浮かべながら問いを遮り呟いた。
その瞬間に・・・


『ッコノ!!! 忍風情がぁぁぁぁぁ!!!! ?!』


一塊に重なった里人の山。
その一つがガバッと起きたのだ。
瞬間に身を竦めたのは幼子。
起き上がった者を視界にも捕らえず、漆黒の者が笑う。

それは・・・口元だけを釣り上げた冷酷な笑い。


バシャンッと水でも存在する様な音。
同時に地面が空間を広げ・・・
爆発が起こり始める。
次々と火花がその穴から炸裂するが・・・
音は奇怪な声音によって遮られて一切聞こえては来なかった。


『おー 死なない程度の炸裂に設定したけど?
 ま、水に解けない火薬って利用価値高いだろー な 小狐ちゃん』


カラカラと笑う。
穴の傍に歩み寄り、眺めながらだ。
中では既に浮かんでいるだけの物体を笑いながら指差した。
ゆっくりと剥がれる。
その顔を覆う様にして創られた面が・・・
現れた顔は・・・歪みきった忍の頭。
一瞬だけ・・・漆黒の者の笑いは変わる。
冷酷で、冷涼な微笑。
その一瞬を幼子は見たのだが・・・


『小狐って・・・』


ゆっくりと傍に歩み寄り、その衣の裾を引く。
同時に口にしたのはその一言だった。


『んー 狐だろ? 黄色だし チビだし『チビじゃない』 チビだろ?』


ムッとしながら見上げれば・・・
ケラケラとした笑いと、ポンポンッと叩く手が伸ばされる。


『来るか? 小狐ちゃん』 


差し出された手。


一度も与えられる事のなかった手が・・・今、伸ばされる。



『・・・小狐じゃない・・・ オレ・・・ナルト・・・だもん・・・』


『んー オレと同等になったら呼んでやるよ 小狐ちゃん』



二パッと笑った漆黒の者の手を取る。
















「最後・・・まで・・・ 呼んでないじゃん・・・か・・・」


動物が集う。
火影岩の頂上。
まるで寄り添う様に、一匹の小狐が擦り寄る。
黄金に近い毛並み。
フサフサとした尾がゆっくりとナルトを包む様に回された。


「な〜 "旱(カン)" 前の主人は?」

座り込むナルトの頬をソッと舐める狐。
その尾が三つに分かれているのを・・・
大きさがナルトを包む程あるのを・・・
不思議ではないだろう。
ナルトの問いに微かな鳴き声の返答のみ。



「信じらんねーよ・・・ だって "魃"は・・・ 極悪で・・・」









燦々と照る陽射し。
その元でゆっくりとお茶を啜るのは三人。
一人は漆黒の髪の青年と幼女、一人は金色(こんじき)の髪の幼子。
そののんびりとした雰囲気を打ち消すのは・・・

漆黒の乱入者。


『さぁ 小狐ちゃん!! 心置きなく闘って来い』

笑顔で・・・
金色(こんじき)の子を掴み上げて放る。
何故か放り投げた先に現れるのは漆黒の穴。
同時に・・・

『ぎゃぁぁぁぁ!!! クナイ一本位寄越せ!!! "死の森"じゃんかぁぁぁぁ!!!』

『・・・一緒に行って来ますか?』
『えっっ?!』

『小狐ちゃん ヒナも行くってさー』

思いっきりの笑みを付けて・・・
ヒョイッと漆黒の髪の幼女を放り投げた。


『えええぇぇぇぇぇぇぇ!? ちょっ『一本 クナイ付けますから』 ハイ・・・』


ニッコリとした笑みで・・・その絶叫は消えて行った。
それは五歳になる頃の修行風景・・・








「非道な術も 極悪な武器も ってか、在り得ない薬も・・・」







『小狐ちゃん!! 見ろよー ずっと付いて来るだろー』

ケラケラと笑う漆黒の者。
その前方では・・・


『分かったから!!! 術を解けぇぇぇぇえぇぇぇぇ!!!』


大鎌に追いかけ回される金色(こんじき)の子が絶叫する。
その様子にも・・・
笑いが込み上げて来るらしく指差して笑うのだ。



『ヒトを指差してはいけませんよ?』

『・・・・・・・・・・ハイ』


その隣で・・・こんなやり取りがあったのは・・・
知らぬ事だろう。










『コレ何だよぉぉぉぉぉ!!!! コレはぁあぁぁぁぁぁぁ!!』


プルプルと震える刃を持って金色(こんじき)の子が叫ぶ。
その声の震動にも・・・
刀だろう物体が震動した。


『あー? 新しい刀? ってか、敵さんの方に振り下ろしてみなー 面白いぞ?』


ケラケラと笑いながら助言を渡して?送り出す漆黒の者。
その日の晩の任務で・・・
思いっきり振り出せば・・・


ビニュッと不可解な音と共に刃?が伸びて・・・
斬るのではなく、刃は敵の忍と捕らえたのだ。
意思を持つかの様に・・・
その上で、刃らしき物体は・・・敵を喰らった。


『あ〜 な? コレ "魃"さん新作?』

『・・・ 不気味だな・・・』


面を上げて引き攣った表情を晒したのは・・・
漆黒の髪の少年二人。


『あ・・・ああ・・・』


思わずガクッと項垂れながらやっと答えのだ。
これは・・・
最近の事。












『"魃" 火影様から頼まれた薬品は仕上がりましたか?』


気になる"魄"の問いに・・・
一斉に視線が集う。
金色(こんじき)の少年は勿論。
漆黒の髪の少女も少年達も・・・

『おー 完成してるぜ? 早速仕掛けに行ってくらー!!』

『頼まれたのに何故仕掛けるか?』など問える訳はない。


その日の任務の受け渡しの時・・・
何故か昼間同様に笠を被っているのだが、異常な程浮き上がっていたりする。
理由を問える筈はなかった。

ただ、二人が笑いを噛み殺しているのは・・・


成功だろう・・・頭に関連する薬品って?











「・・・ 思い出さない方が・・・良かったかも・・・」


脳裏に蘇った記憶を・・・
思わず頭を左右に振って消し去る。



ある意味・・・
最凶だったヒト。

でも、いつも笑う。

敵にはあの時見せた冷酷な笑いだけど・・・
自分に向けてくれる笑いは違う。


全然違う・・・




「何で? もう、笑ってくれないの・・・」





火影岩の上で・・・
小さく踞る。
寄り添う狐も静かに俯く。




その背を見守る・・・
二つの気配。
ただ、完全に隠す結界に護られている所為で悟られる事はないのだ。


「出るなよー シカクさん」

「ッッ だってなー」

サッと手が出る。
踏み出す一歩が形になった時、当たり前の様に影がその動きを封じるのだ。
朝日によって出来た影を・・・


「アンタ 救いたかったんだろ? 四代目の遺児をー それも火影の座に」

ニッと笑う。
その瞳はいつもの悪戯を施す光を宿さない。
確固たる意思を宿す。


「だがよー」


「オレを見つけてくれねーと困んの それだけの実力はあるからなー」


不満そうに・・・
見おろすシカク。
その視線の先には決して笑っていない蒼鹿。
いつも飄々とした笑いはシカク以上なのだが・・・
ジッと見つめる。
未だに動こうとさえしない小さな背を。




まったく・・・




洩れそうで呟かれなかった言葉。


いつぞやの夜に連れて来たのは見慣れた色彩の同年代の子。

忘れる事などないだろう。


四代目火影であり、戦友の子・・・


「気に入った」と言った蒼鹿に言ったのは咄嗟だった。





「でー コレまで殆ど家に居なかった息子殿はどう致しますかー?」



「おー 親孝行で鹿相手に遊んでやるぜー 内勤として火影脅したしー 
 任務はあるけど? 下忍に本腰入れ始めるからなー オレも 鹿白もー」



ニッと笑みを作り出す。
それは不敵な笑みだろう。


揃って影に飲み込まれてゆく。
残ったのは・・・
微かな声音の響きのみだろう。





ガバッとナルトが顔を上げる。
その勢いに驚いて狐も同様に顔を上げた。

蒼の瞳が一瞬だけ探る様に鋭くなり・・・

辺りを探る。
その瞳に探した存在は映り込む事はない。


再び・・・伏せられた瞳。





いつ・・・その蒼の瞳は・・・映り込む?














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☆言い訳☆ 出会いと言うか・・・拾い? ヒナは鹿白の方なので名前呼び ナル・・・呼ばれてないよ!? 次はヒナ版 修行風景ってどうなんだろう・・・ 火影の髪は一本になってます(オイッ) 02・23