歓喜が満ちる。
闇を守護に持つ血筋。
その恩恵を預かった子が・・・



この地に降り立った。



「生まれた 生まれた お生まれになった お生まれになられた」



喜びに満ちた声音が高らかに山に響く。
動物達がソッと頭(こうべ)を下げる。
ヒトの声音に呼応する様に・・・
それでいて何者にも従わない気配を保つ動物までもが静かに頭(こうべ)を下げた。



「お生まれになった 神の子 神へと捧げられる子」



木の葉の山を統べる一族。
鹿を飼い、"薬師"を司る。
その一族の嫡子として二つの命が宿った。

一対として・・・




「木の葉の護り 闇の護り神 闇護りの血筋が降誕された」





木の葉の山深くに・・・その降誕が知らされ・・・
ヒトは集いその喜びを伝える。
その内で喜びの欠片も存在しない数名がいた。
"薬師"を司る血の者でも・・・
その表情に喜びはない。
ただ・・・喜ぶ面々を見やる。



「どうして・・・ どうしてなのかしら・・・」



悲痛な声音が上がる。
縋る様に・・・
ただ、必死に中心を見据えた。
涙を浮かべる瞳は決して喜びの色を映し出す事はない。



「・・・ああ・・・ どうしてだろうな・・・」


遠い所を見ながらだろう。
途方に暮れた様な声色が響く。
その音色に・・・
一族の面々は気付く事はない。




例え・・・一族の長とされる者の・・・その表情を読み取る者は・・・




誰もいない・・・















+++ 貴方の隣には +++

序章  対の陰陽













神に捧げられる子に名前は与えられない・・・
呼称は記述されないとされるから



その一対にも名が与えられる事はなかった。






ただ、山の中心にある祠に捧げられる。
光はない。
闇の中に・・・
木の葉を影から護るとされる神に捧げられるのだ。



漆黒に満ちた場所、名さえも与えられず・・・




漆黒の一対が幽閉された。






火影すら知らぬ間に子は捧げられる。





ただ本当の理由は・・・



赤子とされる年齢で・・・その者は言葉を紡ぐ・・・
術を理解し、書を記す。
誰も知らぬ調合を行ない、生まれながらに里に貢献する。
だからこそ・・・
誰にも知らされる事なく、一族内で幽閉されるのだ。
秀でる才を漏らさない様に。
一族の中で最も優れた者だからこそ、神へと還すのだと。












「おーい 鹿白(カハク) 起きてるー?」



漆黒の闇に溶け込み、姿など互いに認識すら出来ない室内。
それでも・・・
互いにある気配のみで状況を悟り合う。



「起きてますよ? 蒼鹿(ソウカ)」



ポッと漆黒の闇の中で灯る輝き。
真白の光と蒼の光。
その輝きから・・・彼等は彼等自身で互いの呼び名を付け合った。
一人ではない、だからこそ・・・



「じゃ オレが言えばいいよな?」

「どうぞ 譲りますから」





クスクスと闇の中で響いた笑い。
笑いと共に光が増す。
蒼と白の輝きがゆっくりとその輝きを増してゆくのだ。
互いの言葉に主語はない。
それでも彼等にとってはいつもの事だから。


闇はその気配を如実に伝える。
それは・・・彼等が統べるのは闇、彼等が属するのは闇。
闇は静かに告げた。
たった一つの気配の侵入を・・・
静寂が満ちる世界に広がる波紋。
何よりも・・・響き伝えるのだ。



「闇に紛れる奈良シカクー 出て来いよ」




冷涼なる声音。
ヒトとしての感情の欠片もなく、ただ笑いを含んだ音色。
その音色は闇に良く馴染む。
静かに、ただ抑揚なく響き渡った。



「・・・お前達・・・は・・・」
   

隠されてしまった我が子を捜した末に・・・
山の祠にしまわれたと、やっと見つけ出せば子と見える筈の全てが霧散していた。
赤子・・・
生まれてまだ一ヶ月の子は既に呼び掛けに答える事も出来るのだ。
流暢な言葉すら紡ぐ。



神懸かり的な程の才が宿った子・・・




「ああ 火くれます? オレ 蒼鹿 っても、鹿白と名付け合っただけだなー」


パキッと木が落ちる。
世界を隔てる木枠まで、子は歩み寄った。
その気配すら・・・悟らせる事はないのだ。
ただ響いた声が・・・
全てを伝える。


「奈良シカクー?」

「あ・・・ああ・・・」


クスクスと笑う声音、目の前に迫るだろう気配。
術を練るチャクラがゆっくりと炎を紡ぎ出した時・・・
その容姿が露になる。


「鹿白 見ろー 報告通り 同じ顔だぜー」

「当たり前でしょうね 血の繋がりが最も濃いのですから」


炎に照らし出される子・・・
木枠に隔たれるものの、その隙間から笑う姿が見え隠れするのだ。
だが、ポンッと微かな術の発動音。
淡い蒼と真白の光が輝いたかと思うと・・・
その姿が変わる。


漆黒の髪、そして小柄な肢体。
陽に当たってない所為で陶器の様に白く・・・
少年の姿まで成長しているのだ。
"変化の術"だとシカクが認識するのに数秒かかる程。
だが・・・
その瞳は隠されてはいない。



蒼鹿と名のった子は・・・右眼のみ真白で左眼は黒曜石の様に深い色彩。

鹿白とされる子は・・・右眼が黒曜石の様に深い色彩左眼が真白。 







「その名前は自分達でか・・・?」



思考が・・・いつに増しても働かない・・・

目の前の子は・・・生まれ一月が経つか経たないかの我が子だろう
ただ・・・

才能に恵まれた子達


"変化の術"さえも操る事の出来る程の・・・才能




木枠に手そ添えながら問う。
光に照らされたその幼い姿を見据えながら。


「それしかないだろー オレ等供物 名前は与えられないだろー」

「でも、二人いる なら 呼称は必要です 初めてですね ヒトに対して名乗ったのは」  

頷き合う蒼鹿と鹿白。
微かな灯火がその姿を映し出す。



「っと、立ち話も難ですから どうぞ? お茶出しますね」

ニコッと笑って鹿白が木枠を簡単に消し去る。
ギョッとしたのはシカクだろう。
ケラケラと笑いながら蒼鹿が引っ張り込むのだった。


「シカクさん 外でのもてなしって茶を出すんだろ? どんな毒が良いー?」

「痺れるの? 筋弛緩剤タイプ? 無味無臭じゃ面白みないですよね?」



暗闇で・・・簡単に言われた言葉。
一瞬でシカクの表情を凍らせる。



「オイッッ?! 何だよっっっ それはっっ!!」


「「ハァ? 流行りでしょ(−)」」



揃った答えに脱力したのは言うまでもないだろう。
真顔で・・・
お茶を片手に言ってのけたのだった。



「お前等!!! 世の中を教えてやる!!! 出る方法を考え出せ!!!!」



闇を吹き飛ばす絶叫だろう。
奈良シカク最大の声音。








その日・・・奈良家当主の家に養子として嫡子が奈良の遠縁から選ばれた。
容姿は当主のシカクに似て・・・

ただ、病弱とされる。


"奈良シカマル"が誕生した。


生まれから一月後の登録、火影の知る所になる。







その一ヶ月後に、九つの尾が木の葉の里を覆う。
予期していたのは奈良の一族だと・・・
混乱の中で囁かれた事柄。


ただ、それは里外の侵入者を完全に塞ぐ奈良の守護によって囁かれる事はなくなる。


"闇護り"との役目によって・・・


ウチハよりも重宝される一族なのだ。


ウチハを影から支える一族として、木の葉の"闇"を奈良家は司る。








闇が統べる事を許された時。
微かな光は月光のみが世界に降り注ぐ。
静かな冷涼な光。
その光は闇を犯す事なく、包み込む様に冷たさを孕むのだ。



「「シカク(さん) ヨシノ(さん) ちょっと遊んで来る(来ます)」」


揃った声音は二重。
ただ、それぞれの個が微かに違う言葉を紡ぐ。
それだけの事。


「アラアラ 暖かくしないとね ハイッ 二人とも揃いよ〜」

ニコニコとヨシノが漆黒の衣。
その衣には奈良家独特の仕掛けが施されている品。
手作りと言う・・・



神に捧げられた子は・・・祠にしまわれ決してヒトの世界には出ない。
当主の子は・・・存在しない・・・


だが、それでは成立しないのだ。


遠縁から選ばれた嫡子として迎える子は・・・
計画に元に創り出された。

奈良家の総意に沿う事のない計画。
だが・・・



木の葉にとっては・・・?



「オウ 行って来い 行ってどんなモノでも見て来いよー」


ヨシノによって着々と出掛ける支度が整えられる最中。
シカクがヒョイッと扉から顔出す。
飄々とした笑い。
それは・・・二人の訪れと共に蘇った・・・
暖かさの一つ。






「鹿白 似合うー?」

クルッと回る。
漆黒の衣は全身を包み、全ての世界から隔てた。
微かな金属音が響くのは仕込まれたクナイと・・・
彼等独自の武具。


「私が似合うのなら 貴方も似合うでしょ? 蒼鹿」 
 

パンッと自らの武具である扇を綺麗に閉じ、スッと懐へと仕込む。
微かな金属音は閉じる際に・・・
その一つ、一つがチャクラを纏った金属の様な紙で構成される。
独特な扇。
金属ではないが、金属よりもずっと機能性を秘めているのだ。


「アラ!! 似合っているわよ? 二人とも!!」

パンッと両手を合わせてニコニコと微笑むヨシノ。
その表情に・・・
かつての困惑も悲しみも一切ないのだ。


数歳重ねた姿に"変化"した二人が揃って飛び出す。
外へ、外へと興味を広げた二人の日課。
夜の散歩。
昼の間は大抵一人として過ごさなければならない。
封じられるチャクラ、一つとされる姿。
全てが自由を奪う枷だが・・・
闇の祠から飛び出すには必要な事。
夜の闇はその枷を外す事の出来る唯一の時。







「九つの尾の狐 尾獣はヒトと共に 誰に抱かれたのでしょうね?」


闇を犯す事のない静かな音色。
月に映し出される影は二つ。
微かな輝きが影の動きを伝える。


「さーて それを見つけ出すんだろ? 火影に接触してー」


フワリ、フワリと闇を舞う。
溶け込む様で・・・
決して闇に浸食されるのではない。
闇の世界でその者達は抱かれているのだ。















木の葉に降り立った神々の子。

黒曜石の瞳と真白の瞳。
陰陽の瞳を持ち合わせた一対が・・・
"最凶"の称号を得る。


二つの影が侵入してから数年後の事。



一対はビンゴブックにさえも"死神"と記されるのみ。


不可思議な扇で行なわれる舞い。
真白と蒼のチャクラによって彩られる世界・・・


木の葉暗殺術特殊部隊第伍班・・・"魃(バツ)"と"魄(ハク)"


"伍"は"護"とされる。

"五"は"魔"を呼び込む・・・数字・・・


その一対は他には"魔"、木の葉にとっては最大の"護"となるのだった。














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☆言い訳☆ 初投稿? またシリーズ抱えるのですか、自分は・・・ W鹿ですぜ!!(どんなテンション?) 序章、 木の葉での鹿の位置 既にまた・・・波の国編でやりたい事が・・・ それに今回は班編成から弄って・・・逝きます!! スミマセン お暇でしたらごゆるりとお付き合いの程を〜 02・22