つい、ほんの少し前に産み出された二つの命。
妻は、泣いている。
涙を流して、声をあげて。
これから、僕がすることを知って。




ごめんね。
愛しているよ。
ナル。



呟いて、あやしても変わりはしない。
まだ、元気に泣きじゃくる我が子を抱き、呟いても状況は変わらない。
分かっていても、理解していても、続ける。



だけど、僕は、里の長だから・・・。
この里の人たちを見捨てることは出来ない。




だから、せめて、願わくは。
ナルが、英雄として・・・。
在る事を。
ナルが「幸せ」と成る事を。





父として、最低かもしれない。
長としては、英雄かもしれない。



でも、本当は、ナル。
ナルには封印したくない。
僕の願いは、叶いそうに無いから。
ナルに、辛い思いはさせたくないんだ。






「火影様!!!」


「わかっているよ。」
「・・・・この子達は・・・・」



「カカシくん。」

にこっと笑って、口元にひとさし指を当てる。





「ナル。産まれてきてくれて有難う。愛しているよ。 」




木の焼ける音。
焦げ付く臭い。
逃げ惑う人々。
散っていく命。
尾を振り乱し、狂ったかのよう咆哮する妖狐。



叫び声、泣き声、そんな喧騒の中、僕は両の手に赤子を抱えて、迷い無く歩きだした。


向かう先は、小さな部屋。
指示を出し、書かして置いた式の中心に、我が子を寝かせる。
ゆりかごは二つ。
大切に大切に、ゆりかごに降ろし、ゆっくりと頭を撫でる。



「愛しているよ。」



スッと、目を閉じ、
泣き声を耳に焼き付ける。
最後になるだろう、ささやきを残し、僕は目を開く。
『四代目火影』として。




「屍鬼封尽」


印を組み、術名を呟く。
九尾を引き寄せ、導き、気配をつかむ。
強大なチャクラ。
立っているのがやっとな程の殺気。
これら、すべてを、幼い幼い、この小さな我が子へと。
胸が痛む。
それでも、しなければならない。




九尾と睨み合う。
気は対等。
後は、時期。



一瞬、九尾の気が揺らいだ。
この時、僕は掴んだ。


一気に練り上げたチャクラに、九尾の気を巻き込み、愛しい我が子へといれる。
ナルトの声が一際高く、大きく響く。

胸が痛む。
やめてしまいたくなる。
それは、してはならない。
里を守るため、ひいてはこの子達の未来のため。


ズズズと、式がナルトの腹に浮かび上がり、
九尾のチャクラも、ソコへと入る。

おぎゃあ、おぎゃあと、泣き叫ぶナルト。
連動するかのように、ナルコも泣く。
きっと顔は、封印の辛さではなく、この子達の叫びに辛くゆがんでいるだろう。


スッと、チャクラが途切れた。
封印しきったのだろうか、
否、まだ、気配がある。


ナルトから顔を上げ、気配を掴み、もう一度チャクラに巻き込む。
チャクラが混ざり合うのではない。
チャクラと、別のもの、言うならば、精神体だろうか、
そして、それを、もう一人の愛しい我が子へと。





おぎゃあ、おぎゃあと泣き、身を捩るナルコ。

ナルトも泣く。

ズズズと、先ほどと同じように、式が浮かぶ。

その様すらも、霞み、見えない。







封印は、成功、そして、僕は―――――。












+++ 双樹 +++















「遅かったか。」

息を切らし、駆け寄るのは三代目火影。

「おぬしは、馬鹿じゃよ。四代目。」

つっと、頬を伝うのは紛れも無い涙。
涙でゆがんだ目に映るのは、輝くばかりの金色。
泣き叫ぶ二人の赤子。

「母をも亡くし、父をも亡くし。
 この子らを誰がみるのだ。
 この子らの成長を、誰が見届けるのだ。」


おぎゃぁ、ふぎゃぁ、と泣き続ける赤子。
震える手で撫で、満足そうに笑んで・・・
事切れた四代目に語り続ける。



「おぬしが、見なくて、どうするのじゃ。」


『三代目、みてくれるでしょう?』


ニコニコと笑って、告げる四代目が脳裏に浮かぶが・・・
三代目にとっては、慰めにはならない。


「わしが、みることになるのかの。」

泣き笑いを浮かべ、ナルトをなでる。
にこっと、ナルトが笑い、三代目は思わず頬を緩ませた。
「さあ、二人とも、わしの家へ帰ろう。
 ずっと、一緒に暮らそう。のぅ?ナルト、ナルコ。」
赤子を二人抱え、近くにいた暗部に、まずは四代目のことを話し、この子達はわしが育てる。
という決定事項のみを伝え、指示を出して、三代目は自宅へと戻った。
自宅といっても、火影室の一室。
小さな、清潔な部屋にゆりかごを二つ並べて、赤子を二人並んで寝かせる。


そして、三代目は事後処理へと戻った。










それから、しばらく後、異変が起きた。
ナルトの成長が異常に早いのだ。
ソレをみた世話係が、勘違いをしてしまった。

『ナルトの中に九尾が居る。
 いや、九尾がナルトかもしれない。』と。




危険視されたナルトは、ナルコから離され、別の小さな部屋へと移された。
それは、三代目が行なったこと。
危険視したのは里のものだが、里からの危害を考慮し、三代目が部屋を移した。
それから、だ。ナルコも異常を示した。
成長、しないのだ。
あやしても、あやしても、泣くばかり。
オカシイ。
そう、感じた三代目は、四代目の状況、封印、それらを思い返し、考えた。 



結論は、ナルトには力が、封印されているのではないか。
そして、ナルコは、ナルトの力で成長しているのではないのか。
だとしたら、説明がつく。






この考えは、一部違うのだが、三代目はこれで、納得してしまった。
正確には、ナルトは封じられた力(魄)の強大さゆえに、体がそれに合わせて成長した。
ナルコは、精神(魂)が封じられているため、それの暴走を抑えるために成長が止まったのだ。
これが、ナルト・ナルコ1歳の出来事であった。


その後、ナルトはすくすくと人の倍以上の速さで成長を遂げ・・・
ナルコは人の半分以下の速さで成長していった。


そして、ナルトの身体的成長が3歳を過ぎた頃。
ナルコとナルトは互いを感じあうことができると知る。
例えば、どんなことをしているか、どんな仕打ちを受けているか。
何を感じているか。
などだ。
細かいことまでは分からないが、大まかな感情は感じあえる。
これを知ったとき、ナルトはナルコの成長を妨げるものと出会った。







『だれ?』

【おかしなことを、言うのだのぅ。小僧。】

『だから、だれ?』

【小僧の力であり、小僧の片割れに封されしモノ。そういえば、わかるかの?】

『そう、ナルちゃんをいじめるのはおまえってことだな?』

【いじめるなど・・。】




少年が、少年とは思えない程、怪しげにクツリと笑う。
クツクツと嘲笑うソレは、茶金の長い髪をかきあげ、金の目を細める。
容姿はヒトのよう。
ただ、髪が茶金色。
瞳は、燃える様な銅≪アカ≫色
そして、頬に三本の傷。
そう、ナルトとナルコにもあるソレ。


少年ーナルトーは悟った。



『アンタが俺の中にいる力。つまり、九尾だな?』

ニヤリとも、クスリとも付かない笑みを溢し、ヒトの様でヒトではないソレは少年を見据えた。

【なかなか、ではないか。我は九尾一族が長のひとりである。
 小僧の体内に力を。小僧の片割れに心を、封された、な。】

『で?ナルちゃんをのっとろうって?』


ナルトの周囲の温度が幾分下がる。
どうやら怒りに比例して、温度が下がるようだ。


【それも、おもしろそうだがの。】

クツクツと笑い、ナルトの怒りを意に介さない九尾。
目を細め、ナルトを見つめる。

【そう怒るでない。小僧。面白いのう、小僧は。】

『オレはおもしろくない。』

【のぅ?契約せぬか?】

『はぁ?』

【我は、逢わねばならぬやつが居る。小僧。
 お前の片割れの身体を乗っ取ってでも、のぅ。
 小僧の願いは片割れの幸せ、であろう?】


ギラリと目を光らせた後、にこりと笑うしぐさは胡散臭いことこの上ない。
ナルトは、唇を噛み、睨みつける。
確かに、ナルトの願いはナルコの幸せ。
可愛くて仕方ないナルコが、他のものに乗っ取られるなど、
消されてしまうなど、許せない。


『契約って、何すんだよ?』

悔しさを押し殺し、吐き捨てるように告げる。

【小僧は片割れの幸せ。
 我は、逢わねばならぬ奴がいる。食い違う、そう言いたいのであろう?】

『ソレは、無い。契約、したら、俺がいつかお前に体を作ってやるよ。
 じゃなかったら、くれてやる。』

【おもしろい。実に、面白いぞ。小僧。】


クツクツと笑い、言うその姿にナルトは負けじと睨みつけた。


【契約は、簡単だ。我の名を告げよう、その後、小僧も名乗れ。それだけだ。】

『それだけ?』

【そう、それだけだ。】




すっと、真面目な顔をし、気配を纏う九尾。

【我は九尾一族が長のひとり、后耀】

『うずまきナルト』



ナルトが名前を告げると、場の空気が和らいだ。
それに、首をかしげながら、気になることをたずねる。

『コウヨウって、呼びにくい。』

【ヨウで、構わん。ナルト。】

『んじゃ、ヨウ。ナルちゃんに危害を加えんなよ!』

【どこまでいっても、ソレか。本当に、おもしろい小僧だのぅ。】



クツクツではない、かといっても爆笑でもない笑いを発する后輝。
ナルトはむくれて、睨みつけるだけ。




【ナルコに、危害など加えていないというのにのぅ。
 精神が大きすぎて、身体をゆるりと成長させねば対応できぬから、
 ナルコは成長が遅く、小僧、いや、ナルトは力を受け入れるために成長が早いと、
 そんな簡単なことにも気がつかぬとは。
 本当に、ヒトとはおもしろく、愚かな者だのぅ。なぁ。翳帝よ。】 


ナルコの思念、奥深く。
ポツリと后耀がこぼした独り言は、誰にも聞きとがめられずに消えていった。



ナルトとヨウの出会いから1年半過ぎ。
ナルコは、無邪気に生活していた。



柔らかな光が空間を満たす。
芝生にちょこんと座り、蝶を目で追う少女。
その隣に座り、優しい顔でその様子を見守る老人。
独特の衣を着、火と書いてある笠を座っている横においている老人は、幸せそうに微笑んでいる。
ふと、少女は視線を蝶から離し、老人を見つめた。


「ねぇ。じいちゃ。にいちゃはいつ来るの〜?」
「ナル。もうすぐじゃよ。」
「ほんと?」
「本当じゃ。」
「ナル。良い子に、にいちゃ待つね。」


ニコッと、笑い。
嬉しそうな声を上げる少女。
名前を「ナルコ」という。
彼女には、双子の兄が居る。
それが、今、彼女が心待ちにしている『にいちゃ』なのだ。
ナルコの見た目は2歳ぐらいだろう。
先がクルリとカールし、頭上で二つに括っても肩よりも下に先が来るほどの長い輝く金髪。
夏の空を閉じ込めたかのように青く、澄んだ目。
きゃっきゃっと何が可笑しいでもなく笑い、花を眺めているこの少女。
老人・・三代目火影と、彼女の兄によって大事に大事に育てられているのだ。



「あっ!!にいちゃv!!!」
「ナルちゃん。」

兄の姿を目に留め、パタパタと駆け寄る少女。
兄、は優しく呼び、妹である少女を抱き上げる。


「にいちゃvきいて!!ナル。良い子にしてたよ!!」
「偉いね。ナルちゃん。」


兄にぎゅうっと抱きつき、ナルコはご機嫌。
みてる方が幸せになるぐらいの、幸せ&大好きオーラを撒き散らしている。
双子、先にそういったが。
ナルコを抱き上げる少年。
名前を「ナルト」という。
ナルコと同じ髪の色、目の色。ただし、髪の長さは少年らしく短い。
ぱっと見れば5歳ぐらいの体つきをしており、
その言動は7〜9歳を思わせる。
また、この行動から、双子は、無いだろう。そう、感じるヒトもいるだろう。
双子は事実。
ほぼ同時に産まれ、すぐに『器』とされた二人。
そこから、成長は狂いだしたのだ。


「ナルちゃん。」
「やー。」

暗に、離れなさいと告げるナルトに、ナルコは笑いながら嫌々と首を振る。
それをほほえましく見守るのは三代目。


「ナルトや。怪我は無いか?」
「大丈夫だってばよ。じいちゃん。ほら、なーるーちゃーんー。」

キャーvVと、嬉しい叫びを上げて、ナルコはナルトにさらに抱きつく。
構ってもらえることが嬉しくて、ナルトがいることが嬉しくて。
最後にはナルトが溜息をこぼして折れる。



ナルコの部屋。といっても、忍術で一つの空間となっているのだが・・・。
此処には、天窓からさす日の光が柔らかく留まり、木や花はナルコが好きだろう物が茂る。
どうやって入ったのか分からない・・・
蝶等の可愛らしい虫もいて、日常で一人でいるナルコの慰めとなっている。
縁側があって、部屋は和式。
八条間の隅には掛け布団だけ畳まれた布団がある。
また、この空間はこれまたどこから入ったのか分からない・・・
可愛らしいリスやネズミによって、世話がなされている。
三代目は初め驚いたが、ナルトが驚かないところを見ると、ナルトの部屋もそうなっているのだろう。


「ナルトや。」
「なーに?じいちゃん。」

ナルコを膝に抱きかかえた状態に直して座り、手はしっかりとナルコを構っている状態。
で、ナルトは三代目に返事をした。

「本当に、怪我はないか?」
「無いってばよ。」


心配性だなー。
などと、笑って言うナルト。
ナルトは九尾のチャクラと肉体をその身に封じているため、怪我等のものはすぐに治る。
だからこそ、三代目は心配するのだが、ナルトは心配をかけたくないのか、一切話さない。

ナルトがナルコのとこまで来る間に受ける罵詈雑言、暴力、その他もろもろ。
ナルトは全てを飲み込んで、ナルトの中で消化してしまうのだ。


「にいちゃ。いたいの?」
「ん〜ん。いたくないよ?」
「だって、いたいのがきたから。」
「・・・・・ごめんね。」
「いーよ。にいちゃ!スキー!!」
「ん。兄ちゃんもナルちゃん大好きだよ。」


内心『やっぱり、怪我していたのではないか・・・。』と溜息をつくのは三代目火影。
『ばれた・・』と、ペロッと舌を出すのはナルト。
キャッキャとナルトに嬉しそうに笑い擦り寄るのはナルコ。
“幸せ”そう読んでも差し支えないだろう空気が、この場を満たしていた。


小さな“箱庭”だけで、成り立つ“幸せ”。
確かに、ソレは、此処にある。









遠く離れた場所。
そこでうごめく影。
悲痛な叫びを共に。
切なる思いを胸に。

影はさまよい続ける。


“ドコダ?ヨウ!!?”

“ドコニイル?!”



響き渡る咆哮。
掛け替えのない相棒を探し、
さ迷い歩く、ひとつの影。





“ヨウ!!”




叫びは届かない。
むなしくあたりに響くだけ。